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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)116号 判決

東京都台東区台東3丁目37番8号

原告

コロナ産業株式会社

代表者代表取締役

高崎博

訴訟代理人弁護士

川田敏郎

増岡由弘

訴訟代理人弁理士

志賀正武

渡辺隆

成瀬重雄

横浜市中区尾上町1丁目8番地

被告

株式会社新井清太郎商店

代表者代表取締役

新井清太郎

訴訟代理人弁護士

藤田一伯

訴訟代理人弁理士

尾股行雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成5年審判第14560号事件について、平成7年3月9日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「装飾電燈用ソケット」とし、その形態を別添審決書写し別紙第一記載のとおりとする意匠登録第721785号意匠(昭和57年4月6日登録出願、昭和62年8月31日設定登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。

被告は、平成5年7月14日、本件意匠につき登録無効の審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成5年審判第14560号事件として審理したうえ、平成7年3月9日、「登録第721785号意匠の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年3月27日、原告に送達された。

2  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、請求人(被告)が提示した、箱体に納められたコード付きの装飾用電燈器具のソケットに係る意匠であって、その形態を同写し別紙第二記載のとおりとする意匠(審決における「甲号意匠」、以下「引用意匠」という。)は、本件意匠の登録出願前に公然知られる状態になったものと認定し、本件意匠は、引用意匠に類似し、意匠法3条1項3号に該当するので、本件意匠の登録は同条1項の規定に違反してなされたものであり、無効とすべきであるとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由のうち、引用意匠が本件意匠の登録出願前に公然知られる状態になったものとの認定は争う。

本件意匠及び引用意匠の認定、両意匠の一致点及び差異点の認定は認めるが、両意匠が類似するとの判断は争う。

審決は、引用意匠の公知性の認定を誤り(取消事由1)、本件意匠と引用意匠との類否の判断を誤り(取消事由2)、また、審判手続において、重要な証拠につき原告(被請求人)に意見を述べる機会を与えなかった瑕疵がある(取消事由3)から、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(公知性の認定の誤り)

(1)  審決は、「箱体に納められた甲号意匠(注、引用意匠)は、前記甲種電気用品の型式の認可に基づいて製造され販売されたものであると認めることができる。すなわち、甲号意匠は少なくとも「装飾用電燈器具」としての製造、販売の認可がおりた昭和49年6月25日以降その有効期間の昭和54年6月24日までの間に製造、販売されたものと認めることができる。」(審決書7頁14~20行)と認定したが、誤りである。

スーパー電気株式会社(以下「スーパー電気」という。)による電気用品取締法18条に基づく型式認可番号第92-240号認可証(審決甲第4号証、本訴乙第4号証)は、認可の対象となる製品が公然実施されたことを直接証明するものではない。また、同法24条によれば、型式認可は更新できるし、認可期間経過後に認可に係る製品が販売されることも否定できないから、引用意匠が、上記第92-240号認可証による型式認可の日である昭和49年6月25日から、認可の有効期限である昭和54年6月24日までの間に製造、販売されたとは限らない。

そもそも、電気用品取締法に基づく型式認可は、技術的特徴に関してなされるものであり、意匠は特定されていないから、箱体及び内容物である装飾用電燈器具に表示された型式認可番号「第92-240号」からは、収納されていた装飾用電燈器具のソケットが引用意匠を有していたことにはならないのである。

(2)  審決は、また、購入注文書(審決甲第6号証、本訴乙第6号証)、注文確認書(審決甲第7号証、本訴乙第7号証)、信用状(審決甲第8号証、本訴乙第8号証)、修正信用状証書(審決甲第10号証、本訴乙第10号証)、輸入手形計算書(審決甲第14号証の2、本訴乙第14号証の2)の記載と、引用意匠に係るソケットを具備する装飾用電燈器具が納められた箱体(審決検甲第1号証、本訴検乙第1号証)の表示を総合すると、引用意匠は、少なくとも1978年(昭和53年)10月6日以前に日本に輸入され、その後、スーパー電気等から販売され公然知られる状態になったと認定している(審決書8頁1行~10頁9行)が、誤りである。

審決が認定に用いた上記各文書は、真正に成立したことの証明のない私文書であり、証拠として採用できないものであるうえ、これらの各文書と引用意匠とを結びつけるものは、引用意匠を写した写真(審決甲第3号証の1~5、本訴乙第3号証の1~5)及び上記箱体に表示されている「E1070/20FF」という番号のみであるところ、この番号は「箱体」のみに表示され、ソケット自体には示されていないのである。箱体は厳封されて管理されていなかったのであるから、その箱体の内容物は自由に分離又は交換できる状態にあったものであり、したがって、引用意匠を備えたソケットが、本件意匠の出願前においても、この箱体に収納されていたということにはならない。

審決は、上記認定の根拠として、輸入手形計算書(審決甲第14号証の2、本訴乙第14号証の2)に記載の「決済金額が信用状に記載の金額と符合すること」(審決書9頁11~12行)を挙げるが、輸入手形計算書に記載された金額は6090米ドルであり、信用状(審決甲第8号証、本訴乙第8号証)に記載された金額は23640米ドルであって符合しない。また、審決は、「商品番号TA700/20FFの日本側商品番号であるE1070/20FFが甲号意匠(注、引用意匠)の納められた箱体の側面にも表示されていること」(審決書10頁1~3行)を挙げるが、注文確認書(審決甲第7号証、本訴乙第7号証)には、台湾側の商品番号が「E1070/20FF」と記載されているから、日本側の商品番号が「E1070/20FF」であるとする認定も誤りである。

(3)  審決は、上記のとおり、一方では、上記型式認可番号「第92-240号」が上記箱体に収納されている装飾用電燈器具に表示されていると認定しながら、他方では、この箱体に収納されている装飾用電燈器具が輸入されたものと認定している。しかし、上記認可番号は、電気用品取締法18条に基づく国内製造のための認可番号であり、輸入のための同法23条に基づく認可番号ではない。当時、輸入のためには同法23条に基づく認可を受けなければならないことは、当業者にとって常識であり、これに違反して販売した場合は、同法25条に違反するのみならず、同法57条の処罰の対象になるものである。被告は、昭和46年6月17日に本件意匠と同種の物品である「装飾用電燈器具」につき、同法に基づく型式認可を受けている(甲第5号証)うえ、昭和53年8月16日にも、同法23条に基づく輸入製品のための型式認可番号「第92-291号」(乙第19証号)と「第92-290号」(乙第26号証)を申請しており、その時点よりかなり以前から、甲種電気用品の輸入についての認可の必要性と重要性を知っていたはずである。そのような被告が、スーパー電気の取得した国内製造のための認可番号を借りて、極めて簡単に取得できる同法23条の認可を得ずに輸入手続を行うことは、極めて不自然である。したがって、実際の輸入行為が仮にあったとすれば、その意匠は、引用意匠とは異なる他の意匠であったと考えるのが自然であり、引用意匠を有する商品自体は、輸入されたものでなく、国内で製造されたものと考えるのが常識的である。

2  取消事由2(類否判断の誤り)

審決は、本件意匠と引用意匠の差異点として、円筒体について、本件意匠が、全体的に下窄まり状であるのに対して、引用意匠は、上下同径に形成している点を挙げ、平行縦筋模様について、本件意匠は、この模様が円筒体の下端にまで達しているのに対し、引用意匠は、下端にも細幅の余地部を設けている点を含め3点の差異があると認定した(審決書11頁1~11行)。この円筒体と平行縦筋模様についての差異点は、外観上明瞭であり、この意匠を見る者に明瞭に認識される差異点である。

すなわち、本件意匠に係る物品は、「装飾電燈用ソケット」という比較的単純な形状を有する製品であるから、上記円筒体における差異点は全体的な差異であって、比較的に目につきやすく、需要者の印象にも残りやすい。また、本件意匠に係る物品の特殊性として、その意匠の全体構成としては、自ずと円筒状に限られることが多く、意匠の創作としては、全体的構成を共通としつつ、具体的な部分において改変がなされる場合が多い。

したがって、上記円筒体及び平行縦筋模様における差異点は、意匠判断の主体的基準たる需要者において、明瞭に認識されると解され、両意匠を全体として観察すると、両意匠は美的印象を異にしており、非類似であるというべきであって、審決の本件意匠は引用意匠と類似であるとする判断は誤りである。

なお、本件意匠についての拒絶査定不服審判事件(昭和60年審判第12430号事件)における昭和62年4月16日審決(甲第10号証)では、昭和55年意匠登録願第39027号意匠が引用され、本件意匠においては外周面に形成された筋が線模様であるのに対し、引用された意匠においては突状模様であることの差異に基づいて、両意匠が非類似と判断され、その結果、本件意匠の登録が認められている。したがって、本件においても、平行縦筋模様における差異に基づいて、本件意匠と引用意匠は非類似と判断されるべきである。

3  取消事由3(手続の瑕疵)

審決は、引用意匠に係るソケットを具備する装飾用電燈器具及びこれが納められた箱体(審決検甲第1号証、本訴検乙第1号証)をも基礎として、引用意匠を特定しているが、審判手続において、被請求人(原告)は、この検証物に接する機会を与えられず、実質的に、これについて意見を述べる機会を与えられていない。

したがって、審決は、引用意匠を特定するための重要な証拠について、被請求人(原告)に意見を述べる機会を与えないでなされたものであるから、手続上の瑕疵があり、この瑕疵は、審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  審決は、引用意匠が電気用品取締法に基づく型式認可を受けている事実(審決書6頁5行~7頁20行)から、直ちに引用意匠が販売され公知となったことを認定しているものではなく、この事実に輸入関係書類から認められる事実(同8頁1行~9頁12行)を加えて、商品番号TA700/20FF(日本側商品番号E1070/20FF)のクリスマスツリー用の装飾ライトセットが3000セット、遅くとも1978年(昭和53年)9月25日から同年10月6日までの間に輸入されたものと認定し(同9頁13~19行)、さらに、日本側商品番号E1070/20FFが引用意匠の収められた箱体の側面にも表示されていること、その他の事実(同9頁19行~20頁6行)を総合して、引用意匠は、「少なくとも1978年(昭和53年)10月6日以前に日本に輸入され、その後、スーパー電気株式会社等から販売され公然知られる状態になった。」(同10頁6~9行)と認定したものであり、その判断に誤りはない。

認可期間経過後に認可に係る製品が販売されることも否定できないとの原告の主張については、仮にそうであるとすると、1978年(昭和53年)10月6日以前に日本に輸入された引用意匠に係る商品を、型式認可証(乙第4号証)による有効期限である昭和54年6月24日までの間に販売しないでおいて、その期限経過後に販売することとなり、常識に反するものである。

(2)  原告が私文書として成立を争う輸入関係書類(乙第6~第8号証、第10号証、第14号証の2)は、私文書といっても所定の形式に必要事項をタイプによって打ち込まれた文書であって、注文の段階から始まり、最後は横浜の港に品物が入って輸入手形が決済されるまでの各段階の書類であり、それら一連の文書は矛盾なく繋がっており、真正に作成されたものであることは明らかである。また、引用意匠に係るソケットを具備する装飾用電燈器具が納められた箱体(審決検甲第1号証、本訴検乙第1号証)を写した写真(乙第3号証の1~5)と上記輸入関係書類とを結び付けるものが「E1070/20FF」という番号だけでないことは、審決書の記載(8頁1行~9頁12行、9頁19行~10頁6行)から明らかである。

輸入手形計算書(乙第14号証の2)に記載された金額6090米ドルと、信用状(乙第8号証)に記載された金額23640米ドルが相違するとの原告の主張については、購入注文書(乙第6号証)の注文番号「0-1129」の金額10790米ドルと注文番号「1-1131」の金額12850米ドルを同一の信用状で決済したためであり、両者の合計金額23640米ドルは、信用状番号が同一である2通の輸入手形計算書(乙第14号証の1及び2)の各決済金額17550米ドルと6090米ドルの合計金額23640米ドルと一致する。

注文確認書(乙第7号証)に関し商品番号が相違するとの原告の主張は、縮小コピーの際に「(YOur ・・・」の最左端の「(Y」が欠落したか不明瞭となったため、「Our 」と読み取られたことによるものと思われる。実際には、日本側が出した購入注文書(乙第6号証)に、「TA700/20FF(Our cat No.E1070/20FF)」とあり、台湾側が出した注文確認書(乙第7号証)に、「TA700/20FF(YOur cat No.E1070/20FF)」とあるから、台湾側の番号が「TA700/20FF」、日本側の商品番号が「E1070/20FF」であることは明らかである。

(3)  被告及びスーパー電気の関係者は、昭和53年の春にその年のクリスマス用装飾ライトセットを台湾から輸入するに際して、国内で製造される製品について電気用品取締法に基づく型式認可を受けたものと同じものを海外の製造者に製造させこれを輸入し販売する場合でも、同法23条に基づく認可が必要になることを知らなかった。その後、被告の担当者は、その必要性を知るに至り、同年8月16日に輸入製品のための型式認可を申請し、同年9月22日付けで「第92-290号」と「第92-291号」として、これが認可されたものである。被告が、引用意匠を有する商品に国内製造のための型式認可番号を付して輸入販売し、同法に違反してしまったことと、輸入という客観的事実が実際に存在することとは全く別の問題である。

2  取消事由2について

意匠判断の主体的基準である需要者において、明瞭に認識できる差異点と認められるには、比較する両意匠の形態上の特徴を顕著に表すものでなければならないが、原告が挙げる微弱な相違点では、そのような顕著な差異点となり得ないことが明らかであり、審決がなした類否判断に誤りはない。

本件意匠の拒絶査定不服審決(甲10号証)において、引用意匠とされた昭和55年意匠登録願第39027号意匠と、本件の意匠登録無効審決における引用意匠とは、全く異なるから、前者の審決で本件意匠とその引用された上記意匠とが非類似とされたからといって、本件審決において本件意匠と引用意匠が非類似となるわけではないし、前者の審決でも、線模様と突状筋模様の違いのみで本件意匠とその引用された意匠とが非類似とされたわけではない。

3  取消事由3について

本件審判手続は職権により書面審理されたものであるところ、書面審理における証拠調べについては、当事者にこれに関与し意見陳述の機会を与えなくても、違法ではない。

しかも、審判手続において、請求人(被告)から検甲第1号証(本訴検乙第1号証)が提出された事実は、請求人(被告)作成の平成6年10月24日付け弁駁書に記載され、この弁駁書は被請求人(原告)に送達されたのであるから、閲覧申請を行えば、その内容を確認することができたはずである。

原告の手続違背の主張は失当である。

第5  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。証拠の成立については、乙第6~第10号証、第13~第15号証、第24、第25号証を除いて、当事者間に争いはなく、これらの書証については、証人鈴木三郎及び同柴道英雄の各証言並びに弁論の全趣旨により、真正に成立したものと認められる。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(公知性の認定の誤り)について

(1)  甲第8号証、乙第3~第10号証、第13~第16号証、第25号証、検乙1号証、証人鈴木三郎及び同柴道英雄の各証言によれば、以下の事実が認められる。

我が国で、電気用品取締法に基づく甲種電気用品の製造事業者が、甲種電気用品を製造販売するには、同法18条に基づく甲種電気用品の製造のための型式認可を受け、その型式認可番号、製造者名等を当該電気用品に表示し、この表示が付された電気用品でなければ、これを販売又は販売の目的で陳列してはならないとされる(電気用品取締法25条、27条等)。ところで、スーパー電気は、昭和35年に法人化され、電気用品取締法3条に基づく甲種電気用品の製造事業者として通商産業大臣の登録(東第1267号)を受けた輸出向けクリスマス装飾用電燈セットの専門メーカーであったが、国内で甲種電気用品に該当する装飾用電燈器具(平成7年政令第171号による電気用品取締法施行令の改正前の区分による。同改正後、「装飾用電灯器具」は乙種電気用品とされる。)を製造販売するため、電気用品取締法18条に基づく前記型式認可を昭和49年6月10日に申請し、同年6月25日、型式認可番号「第92-240号」、甲種電気用品名「装飾用電燈器具」、型式の区分「定格電圧125V以下のもの」「定格電流0.5A以下のもの」等との内容により認可を受けた(乙第4号証)。認可の有効期限は5年である(同法24条、電気用品取締法施行令(前記改正前のもの)2条、別表第1)ので、昭和54年6月24日までとなる。

スーパー電気は、前記製造認可の取得後、クリスマス装飾用電燈セットを製造して数名の輸出業者に販売していたが、その後、安価な国外製品が輸入されて価格の面で太刀打ちできなくなったため、製造認可を受けたものと同一の製品をできるだけ台湾の業者に製造させて、これを輸入・販売することに方針を変更した。そして、同社は、昭和53年の春、電気機械器具等の輪出入業等を営む被告に対し、クリスマス装飾用電燈セットを、国内の問屋への出荷に間に合うように、同年の10月ころまでに台湾から輸入するよう依頼するに至った。

被告は、これに応じて、同社の台湾向けの輸出入に関するダミー会社(ただし、法人登記はなされていない。)である「ORION MERCANTILE CORPORATION」の名義で、昭和53年4月21日、台湾の輸出業者であるSHENG CHENG ENTERPRISE社に対し、商品番号「TA700/20FF」(日本側の商品番号「Our cat No.E1070/20FF」)のクリスマスツリー用装飾ライトセット(20球付、ペッパー型ライトセット、100V用)3000セットを含む数種類のクリスマスツリー用装飾ライトセットを注文し、注文番号0-1129(合計金額10790米ドル)及び注文番号0-1131(合計金額12850米ドル)の購入注文書(乙第6号証、両者の合計金額23640米ドル)を送付し、これに対し、SHENG CHENG ENTERPRISE社は、同年4月25日に上記クリスマスツリー用装飾ライトセット3000セットを含む数種類のクリスマスツリー用装飾ライトセットの注文を受注した旨の注文確認書(乙第7号証)を送付し、両社の問に注文販売契約が成立した。そして、同年5月23日、「ORION MERCANTILE CORPORATION」を依頼者とする信用状(NO.YL913139、乙第8号証)が横浜銀行から発行され、この信用状には、「注文番号0-1129と0-1131通り22,000セットのクリスマスデコレーションライトセットに適用します。台湾から横浜港向けに1978.8.25.迄に船積みの事。金額23,640米ドル 満了期限1978年9月4日」と記載されている。なお、横浜銀行により、同年9月8日、最終船積み日が同年9月25日に、信用状満了日が同年10月5日に修正する旨の修正信用状証書が発行されている(乙第10号証)。そして、SHENG CHENG ENTERPRISE社は、被告の指示により、台湾の製造メーカーであるKAO YUEN ELECTRIC 社にクリスマスツリー用装飾ライトセットを製造させて、日本に輸出した。船積み書類が横浜港に到着して輸入手形が決済されたことを示す輸入手形計算書(乙第14号証の1、2)には、同一の信用状(NO.YL913139)に基づき、1978年9月12日到着分17550米ドル及び1978年10月6日到着分6090米ドルの合計金額23640米ドルを被告が決済したことが記載されている。

引用意匠の形態を有し箱体に納められたコード付きのクリスマスツリー用装飾ライト(検乙1号証及び乙第3号証の1~5の写真の被写体)において、その箱体には、「20LITE」「第92-240号、100V-0.3A 東第1267号 SDC」「KAO YUEN ELECTRIC CO,.LTD MADE IN TAIWAN・・・」「CAT #E1070/20FF」の記載があり、その内容物である20球(その外に予備のライト2球)のクリスマスツリー用装飾ライトのコードにも「第92-240号、100V-0.3A 東第1267号 SDC」を記載した紙が巻き付けられている。これらの表示は、スーパー電気(「SDC」は同社のマークである。)が昭和49年6月25日に受けた甲種電気用品に係る前記型式認可に合致するとともに、同社が被告を介して台湾で製造させて遅くとも昭和53年10月6日までに輸入した、前記クリスマスツリー用装飾ライトセットにおける一連の輸出入関連書類及び代金決済書類の記載とも一致するものである。

(2)  以上の事実を総合すると、引用意匠を具備したソケットを有する装飾用電燈器具は、昭和49年6月25日以降、昭和53年3月ころまでの間に、スーパー電気によって製造、販売され、その後、台湾において製造されて、同年10月6日までの間に被告を介して日本に輸入され、スーパー電気等によって国内で販売され、同年年末には公然知られる状態になったものと認められる。

したがって、審決のこれと同旨の判断(審決書7頁14行~10頁9行)に誤りはない。

原告がその成立を争う上記輸入関係書類(乙第6~第8号証、第10号証、第14号証の1、2)は、スーパー電気の代表者である証人鈴木三郎及び被告の輸入担当者である証人柴道英雄の各証言によってその成立が真正であることが裏付けられるだけでなく、その体裁が所定の形式に必要事項をタイプによって打ち込まれた文書であり、しかも、商品の注文の段階から始まり、その確認、代金決済のための銀行による信用状の発行、実際に横浜港に商品が入って輸入手形が決済されるまでの各段階を統一して示す書類であって、それらの日付けや商品番号、代金決済額等の記載の間に矛盾がないことは前記認定のとおりであるから、真正に作成されたものであることは明らかというべきである。

また、台湾から輸入された前記クリスマス用装飾ライトセットに付された型式認可番号「第92-240号」は、国内で製造される甲種電気用品についての電気用品取締法18条に基づく型式認可であり、同様の製品を海外の製造者に製造させてこれを輸入し販売する場合には、電気用品取締法23条に基づく認可が別途必要となり、スーパー電気及び被告がその認可を受けずに前記製品を輸入販売することは、同法に違反するものであるが、そのような法律違反があったからといって、前記各証拠によって認定された当該製品の輸入という客観的事実が左右されるものでないことは明らかである。

なお、甲第8号証、乙第19、第24、第26号証及び検乙第2号証によれば、被告は、昭和53年8月16日に同法23条に基づく輸入製品のための型式認可を申請して、同年9月22日に型式認可番号「第92-290号」と「第92-291号」の型式認可を取得し、この型式認可番号「第92-290号」により、前示と同じ製造元である KAO YUEN ELECTRIC 社が製造した別種のクリスマス用装飾ライトセット(検乙第2号証)を輸入して販売したことが認められるが、この装飾用電燈器具のソケットの意匠も引用意匠と同一であると認められ、この事実と前示の事実を総合すれば、引用意匠を具備したソケットを有する装飾用電燈器具は、本件意匠の意匠登録出願日である昭和57年4月6日前に、我が国において公然知られた意匠となっていたと認められる。

原告の取消事由1の主張は、採用することができない。

2  取消事由2(類否判断の誤り)について

本件意匠と引用意匠とを比較すると、審決認定のとおり、「両意匠は、意匠に係る物品は一致し、形態については、その基本的構成を、直形と高さの比率を略1:2とする円筒体を基本形状とし、その円筒体の周側の上端に細幅の余地部を帯状に残し、それより下方に多数の縦筋模様を等間隔に表した点、及び、その各部の具体的態様を、円筒体の周側の上端に設けた細幅の余地部を開口部の内側から外側に向け弧状に形成した点、上端の開口部は円孔に、下端は、倒凸状孔を左右対称に表した点が一致する」(審決書10頁11~20行)こと、「他方、差異点として、先ず、円筒体について、本件登録意匠は、僅かに下窄まり状のものであるのに対し、甲号意匠(注、引用意匠)は、上下同径に形成している点、次に、平行縦筋模様について、〈1〉本件登録意匠は、該模様が円筒体の下端にまで達しているのに対し、甲号意匠は、下端にも細幅の余地部を設けている点、〈2〉本件登録意匠は、該模様を16本表しているのに対し、甲号意匠は、14本である点、〈3〉本件登録意匠は、その模様を細線で表しているのに対し、甲号意匠は、突条線で表している点において差異が認められる」(審決書11頁1~11行)ことは、当事者間に争いがない。

以上の事実を前提として、本件意匠と引用意匠の類否を検討すると、両意匠に係る物品はともに、クリスマスなどに使用される装飾電燈用のソケット部品であり、上記のとおり、両意匠は、直径と高さの比率をほぼ1:2とする円筒体であるとの基本的構成態様において一致し、この基本的構成態様を基礎にした具体的構成態様においても、円筒体の周側の上端に設けられた細幅の帯状の余地部、それより下方に延びる多数の等間隔の縦筋模様、上端の円孔の開口部、下端の左右対称に設けられた倒凸状孔を備える点で一致しているのであり、両者を全体として観察すると、その円筒体及び平行縦筋模様における審決認定の上記差異点は、両意匠に共通する前記基本的構成態様及び具体的構成態様に比し、取引者、需要者の注意を惹きつける力において弱く、その印象は微弱なものと認められる。

すなわち、円筒体について、本件意匠が、上端部の直径より下端部の直径が僅かに短く下窄まり状の円筒形となっている点については、看者がそのことを特に注意して観察してみてわかる程度のものであり、上下同径である引用意匠との差異が意匠全体に与える影響は、極めて微弱なものというべきである。平行縦筋模様のうち、〈1〉引用意匠において、平行縦筋模様が下端にまで達しておらず細幅の余地部を僅かに残している点については、前記同様、看者がそのことに注意して観察してみて初めてわかる程度のものであるし、実公昭49-20398号公報(乙11号証)の第1図及び実開昭54-106086号公報(乙12号証)の第3図によれば、装飾電燈用のソケットの分野において、本件意匠のように平行縦筋模様が円筒体の下端まで達しているものは、その登録出願前に普通に知られた態様であると認められることを考慮すると、その差異が意匠の類否判断に与える影響は、ほとんどないといって差し支えない程度のものであり、〈2〉平行縦筋模様の数が、本件意匠において16本であり、引用意匠において14本である点は、円筒体の外周面を看者が丹念に数えてみて初めて分かる程度のものであり、〈3〉引用意匠における平行縦筋模様が突条線すである点については、その突条の幅(厚さ)は極めて薄く、高さも極めて低いから、単なる模様であるのか突起状のものであるのかは外観からほとんど識別がつかず、その模様を細線で表している本件意匠との差異は、極めて微弱なものというべきである。

以上のとおり、審決が認定する差異点は、その相違の程度が極めて少なく、いずれも本件意匠と引用意匠の類否を検討するうえで、取引者、需要者の注意を惹きつける部分であるということができないのに対し、両意匠の一致点である前記基本的構成態様及び具体的構成態様は、両意匠の全体的観察において看者の注意を惹きつける部分であり、両者に共通した美観を与えるものと認められ、両意匠は、類似するものというべきである。

したがって、両意匠を類似するものとした審決の判断に誤りはない。

なお、本件意匠の拒絶査定不服審決(甲10号証)において、本件意匠と昭和55年意匠登録願第39027号意匠が対比されて非類似と判断されているが、当該引用の意匠と本件における引用意匠とは別個の意匠であるから、同審決の判断が本件意匠と引用意匠の類否の判断を左右するものではないことは、いうまでもない。

3  取消事由3(手続の瑕疵)について

意匠法52条が、審判に関して準用する特許法150条5項によれば、審判長は、審判に関して職権で証拠調べをしたときは、その結果を当事者及び参加人に通知し、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えなければならないとされる。ただし、この規定は、同条項における明文の記載のとおり、職権による証拠調べに限定され、当事者の申立てにより証拠調べを行う場合には、適用がないものと解される。

本件の無効審判手続において、検甲第1号証(本訴検乙第1号証)は、当事者である請求人(被告)から提出されて証拠調べされたものである。そうすると、被請求人(原告)にこれに対する意見陳述の機会を与えなくても、違法とはいえない。

したがって、原告の主張は、採用できない。

4  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成5年審判第14560号

審決

神奈川県横浜市中区尾上町壱丁目八番地

請求人 株式会社 新井清太郎商店

東京都中央区銀座8丁目16番13号 中銀・城山ビル11階 尾股特許事務所

代理人弁理士 尾股行雄

東京都台東区台東3丁目37番8号

被請求人 コロナ産業 株式会社

東京都新宿区高田馬場3丁目23番3号 ORビル 志賀国際特許事務所

代理人弁理士 志賀正武

東京都新宿区高田馬場3丁目23番3号 ORビル 志賀国際特許事務所

代理人弁理士 渡邊隆

東京都新宿区高田馬場3丁目23番3号 ORビル 志賀国際特許事務所

代理人弁理士 成瀬重雄

上記当事者間の登録第721785号意匠「装飾電燈用ソケット」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第721785号意匠の登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

Ⅰ、請求人の申立及び理由

請求人代理人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由について概ね以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため甲第1号証の1及び2、甲第3号証の1乃至5、甲第4号証乃至甲第13号証、甲第14号証1及び2、並びに、検甲第1号証を提出した。

意匠登録第721785号(以下、「本件登録意匠」という)は、昭和57年4月6日に意匠登録出願をし、昭和62年8月31日に意匠に係る物品を「装飾電燈用ソケット」として登録されたものである。

しかしながち、本件登録意匠は、その出願の日前に日本国内において公然知られた甲第3号証の1乃至5に示す「装飾電燈用ソケット」の意匠(以下、「甲号意匠」という)に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第1号、または、第3号に該当し、同法同条第1項の規定に違反してなされたものであるから、その意匠登録は無効とされるべきである。

Ⅱ、被請求人の答弁及び理由

被請求人代理人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。との審決を求めると答弁し、その理由について概ね以下のとおり主張した。

1、請求人が公知意匠であると主張する甲号意匠は、請求人の主張する理由及び提出された証拠では、甲号意匠を「本件登録意匠の出願前に公然知られた意匠」と認定することはできない。すなわち、甲第4号証に示された型式認可を受けたことをもって、直ちに当該意匠が「公然知られた意匠」とすることは到底不可能である。甲第4号証に記載された事項は、単になんらかの電気器具が、認定番号「第92-240号」として認可されたということであり、当該電気器具が公然と知られたという事実関係を知る証拠とはなり得ない。

2、仮に、甲号意匠の公知性が立証されたとしても、本件登録意匠は、甲号意匠とは非類似の意匠である。すなわち、両意匠は、その基本的構成態様において、本件登録意匠は、下方に向けて縮径する尻窄みの円錐台状となっているのに対し、引用の意匠は、全体形状を円筒形状としており、細部においても、本件登録意匠は、外周面に表した縦縞模様が下端に達しているのに対して、甲号意匠は、下端に間隔を有する。したがって、全体形状の相違に加え、具体的形状においても相違しており、意匠全体として評価した場合両者は非類似である。

Ⅲ、当審の判断

1、本件登録意匠

本件登録意匠は、昭和57年4月6日に登録出願をし、昭和62年8月31日に設定の登録がなされたものであって、願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「装飾電燈用ソケット」とし、その形態は別紙第一に示すとおりとしたものである。すなわち、その基本的構成は、直形と高さの比率を略1:2とする円筒体を基本形状とし、その円筒体の周側の上端に細幅の余地部を帯状に残し、それより下方に多数の縦筋模様を等間隔に表したものであり、その各部の具体的態様は、円筒体の周側の上端に設けた細幅の余地部を開口部の内側から外側に向け弧状に形成し、上端の開口部は円孔に、下端は、倒凸状孔を左右対称に表したものである。更に詳細にみると、円筒体は、僅かに下窄まり状のものとし、周側に表した縦筋模様は、下端まで表しているものである。

2、甲号意匠

甲号意匠は、箱体に納められたコード付の装飾用電燈器具のソケットに係る意匠であって、その形態は別紙第二に示すとおりとしたものである。すなわち、その基本的構成は、直形と高さの比率を略1:2とする円筒体を基本形状とし、その円筒体の周側の上端に細幅の余地部を帯状に残し、それより下方に多数の縦筋模様を等間隔に表したものであり、その各部の具体的態様は、円筒体の周側の上端に設けた細幅の余地部を開口部の内側から外側に向け弧状に形成し、上端の開口部は円孔に、下端は、倒凸状孔を左右対称に表したものである。更に詳細にみると、円筒体の周側の下端にも細幅の余地部を残しているものである。

3、本件登録意匠と甲号意匠との比較検討

そこで、本件登録意匠と甲号意匠との類否を検討する前に、まず、甲号意匠が本件登録意匠の出願前に日本国内又は外国において公然知られたか否かについて検討する。ところで、スーパー電気株式会社は、装飾用電燈器具を製造販売するに当たり、装飾用電燈器具を甲種電気用品として電気用品取締法の適用を受けるため通商産業省に対し、昭和49年6月10日に甲種電気用品の型式認可の申請をした。通商産業省は、この申請に対し昭和49年6月25日付けで、1.型式認可番号「第92-240号」2.甲種電気用品名「装飾用電燈器具」として装飾用電燈器具の製造、販売の認可をした事実が認められる(甲第4号証)。なお、この認可証には、上記の他に3.型式の区分として「定格電圧125V以下のもの、定格電流0.5A以下のもの」等の記載がある。

一方、箱体に納めた甲号意匠をみると、その甲号意匠には、装飾用電球及びコードが取り付けられているものであるが、そのうち、コードにはラベルが付されており、そのラベルには「〒第92-240号」と「100V-0.3A」、「東第1267号」と表示されていることが認められる(甲第3号証の2、検甲第1号証)。このうち「〒第92-240号」の表示は、前記スーパー電気株式会社に対し、通商産業省が昭和49年6月25日付けで認可をした型式認可番号「第92-240号」と符合するものである。また、電気用品取締法をみると、その第27条には、型式認可番号の表示ざれているものでなければ、販売し又は販売目的で陳列してはならないと規定されていること、更に、その型式の認可の有効期限については、電気用品取締法施行令の別表に5年と定められている(甲第5号証)こと等を考え合わせると、箱体に納められた甲号意匠は、前記甲種電気用品の型式の認可に基づいて製造され販売されたものであると認めることができる。すなわち、甲号意匠は少なくとも「装飾用電燈器具」としての製造、販売の認可がおりた昭和49年6月25日以降その有効期間の昭和54年6月24日までの間に製造、販売されたものと認めることができる。加えて、輸入業者(注文者)である横浜のORION MERCANTILE CORPORATION(株式会社荒井清太郎商店のダミー会社)が1978年(昭和53年)4月21日に発行した購入注文書(注文書番号0-1131)から、輸出業者(受注者)である台湾のSHENG CHENG ENTERPRIS CO.,LTDに対し、商品番号TA700/20FF(日本側商品番号E1070/20FF)のクリスマスツリー用装飾ライトセット(20球付、ペッパー型ライトセット 100V用)を3,000セット注文した事実が認められ(甲第6号証)、また、SHENG CHENGEN ENTERPRISE CO.,LTDの注文確認書からSHENG CHENGEN ENTERPRISE CO.,LTDは、1978年(昭和53年)4月25日に商品番号TA700/20FF(日本側商品番号E1070/20FF)のクリスマスツリー用装飾ライトセット(20球付、ペッパー型ライトセット 100V用)を3,000セット受注したことも認められる(甲第7号証)。更に、上記、双方の契約に基づいてORION MERCANTILE CORPORATIONを依頼者とする信用状(信用状NO.YL913139)が横浜銀行から1978年(昭和53年)5月23日に発行され(甲第8号証)、この信用状に、「注文書番号0-1129と0-1131通り22,000セットのクリスマスデコレーションライトセットに適用します。」「台湾から横浜港向けに1978.8.25迄に船積みの事。」「満了期限1978年9月4日」との記載がある。なお、後日、最終船積みは9月25日に、信用状満了期日は1978年10月5日に修正されている(甲第10号証)。更に、船積み書類が横浜銀行に到着し、輸入手形が決済されたことを示す「輸入手形計算書(甲第14号証の2)」に甲第8号証の信用状番号である「L/C NO.YL913139」の記載があり、決済金額が信用状に記載の金額と符合すること等を総合すると、商品番号TA700/20FF(日本側商品番号E1070/20FF)のクリスマスツリー用の装飾ライトセットが3,000セット、遅くとも台湾からの最終船積み日である1978年(昭和53年)9月25日から輸入手形が決済された1978年(昭和53年)10月6日(甲第14号証の2の決済日)迄の間に日本に輸入されたものであることが認められる。そうして、この輸入されたクリスマスツリー用の装飾ライトセットの商品番号TA700/20FFの日本側商品番号であるE1070/20FFが甲号意匠の納められた箱体の側面にも表示されていること(甲第3号証の3及び検甲第1号証)、及び箱体に表示された各種の表示並びに購入注文書、注文確認書に記載の商品明細等を総合すると、甲号意匠は、少なくとも1978年(昭和53年)10月6日以前に日本に輸入され、その後、スーパー電気株式会社等から販売され公然知られる状態になったものとすることが認められる。

4、そこで、本件登録意匠と甲号意匠とを比較し両意匠を全体として考察すると、両意匠は、意匠に係る物品は一致し、形態については、その基本的構成を、直形と高さの比率を略1:2とする円筒体を基本形状とし、その円筒体の周側の上端に細幅の余地部を帯状に残し、それより下方に多数の縦筋模様を等間隔に表した点、及び、その各部の具体的態様を、円筒体の周側の上端に設けた細幅の余地部を開口部の内側から外側に向け弧状に形成した点、上端の開口部は円孔に、下端は、倒凸状孔を左右対称に表した点が一致する。

他方、差異点として、先ず、円筒体について、本件登録意匠は、僅かに下窄まり状のものであるのに対し、甲号意匠は、上下同径に形成している点、次に、平行縦筋模様について、〈1〉本件登録意匠は、該模様が円筒体の下端にまで達しているのに対し、甲号意匠は、下端にも細幅の余地部を設けている点、〈2〉本件登録意匠は、該模様を16本表しているのに対し、甲号意匠は、14本である点、〈3〉本件登録意匠は、その模様を細線で表しているのに対し、甲号意匠は、突条線で表している点において差異が認められる。

そこで、上記の一致点及び差異点を総合して両意匠の類否を全体として考察すると、上記において一致する基本的構成及び各部の具体的態様は、両意匠の形態上の特徴を顕著にあらわすものであり、かつ看者の注意を強く惹くところのものともなるので類否判断を左右する要部をなすものと認められる。これに反し、差異点は、いずれも類否判断を左右する要素としては微弱なものと認められる。すなわち、前記差異点のうち、先ず、円筒体にみられる差異は、本件登録意匠の下窄まり状を形成するその態様も上端部の直径と下端部の直径の差異が極めて僅かで殆ど目立たず、その差異も特にこのことに注意してみて初めてわかる程度の微細なものであり、その差異は特に看者の注意を惹くものとは言えない。次に、平行縦筋模様における差異のうち、先ず、〈1〉の下端の余地部の有無についての差異は、甲号意匠に設けられた下端の余地部は僅かなもので、形態全体としてみると本件登録意匠との差異は、それほど看者の注意を惹くものとも言えず、また、この種装飾用電燈器具の分野にあっては、本件登録意匠のごとく平行縦筋模様が円筒体の下端にまで達しているものが、本件登録意匠の出願の日前より普通に知られた態様でもあること(例えば、特許庁発行の実用新案公報、公告日、昭和49年5月31日の昭49-20398、考案の名称「装飾豆電球用端子」の第1図のうち装飾電燈用ソケットの意匠=甲第11号証参照)等を考え合わせると、その差異は、類否判断を左右する要素としては微弱なものと言わざるを得ない。次に、〈2〉の平行縦筋模様の数については、円筒体の周側を16等分にしたか、又は14等分にしたかは、指摘され数えてみて初めてわかる程度の軽微なものと言えるものであり、また、〈3〉の平行縦筋模様が細線か突条線かについての差異も、甲号意匠に表された突条の太さ及び高さも極めて細く、且つ、低く形態全体としてみると、単に平行縦筋模様が表れているものとしての認識が圧倒的なものとなるので、その差異は、殆ど見分けのつかない程度の微差にすぎず看者の注意を惹くものとも言えない。したがって上記の差異はいずれも、両意匠の類否判断を左右する要部としては微弱なものと言える。そうして、これらの差異点を総合しても両意匠の前記、構成態様の一致点を凌駕するものとは到底言えない。

以上のとおり、本件登録意匠は、甲号意匠と意匠に係る物品が一致し、形態においても、その形態上の特徴を最もよく表す要部において一致するものであるから、本件登録意匠は、甲号意匠と類似するものと言うほかはない。

したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に該当するものであったにかかわらず、同法同条第1項の規定に違反して成されたものであるから、その登録は、無効とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年3月9日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙第一 本件登録意匠

意匠に係る物品 装飾電燈用ソケット

説明 背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同一にあらわれる。

〈省略〉

別紙第二 甲号意匠

〈省略〉

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